[コーラスを楽しむ(その2)]
ハーモニーの起源
  

 我が「AU雑技団」ホームページ(HP)への登載を進めて行くにあたり、アカペラコーラスを10年近く経験し、またバーバーショップハーモニーを堪能してきた一人として、その関連でかねて好奇心や疑問を持っていたことを調べ、区切りに到達したら逐次登載して行こうと思っていました。

 その一つに、「現在私たちが楽しんでいるハーモニーやそれを構成する音階は、果たしてどのように、いつ頃確立したのか」という疑問がありました。音楽の知識が豊富な方には周知のことだろうと思うのですが、情けないかな私は、そのことに対する知識をほんの一部しか持ち合わせていなかったのです。今回は、この疑問に関して調査した結果をご紹介することにします。

 ≪現在の主流「12平均律」の提唱者はピタゴラス先生≫ 

  

 私たちが現在使用している音律、つまり「音階を構成するそれぞれの音程(音の間隔)関係を定める約束事」は「12平均律」といい、ほとんどの楽器のチューニング(音高合わせ)にそして演奏に使用されています。12平均律が提唱されたのは今からおおよそ380年前の1636年、フランスの僧侶で数学、物理の研究に携わっていたマラン・メルセンヌという人が提唱し確立したと言われています。しかし、現在の音階のまさに起源ともいうべき音律は、さらに遠く遡った紀元前500年頃にあのギリシャの数学者であり哲学者であるピタゴラスが提唱しているのですね。これは私にとってちょっと驚きで、確かに「ピタゴラス音律」として音楽史に残されています。

 ピタゴラスは音楽家ではありませんでしたが、当時は哲学の一部として現代で言う「自然科学」「数学・幾何学」が位置づけられていて、そこでピタゴラスが音に対する研究や分析を試み、その結果として提唱した音律ということのようです。

 ところで、音律を語る時には、一つ大きな前提があります。それは、「人は、ある音の周波数を1/2にした音を聞くと、今で言う1オクターブ上の同じ音として認識する」ということです。そこで、音律を考える時に、この1オクターブの中の音程をどのように区切るかが音律を考えるときの共通した考え方となっているのです。ピタゴラスは、この1オクターブを区切る拠り所として完全5度の音に着目しました。これは、現在の音階でいうと「ド」「ソ」の関係になりますが、「ド」の2/3の周波数を持つ音が「ソ」の音で「ド」との協和度が最も高い音であることを突き止めたのです。そして、この完全5度の関係を順次辿って、「ド」から「ソ」、そして次の「ソ」から「レ」の音を求め、さらに「レ」から「ラ」、「ラ」から「ミ」というように、これを13回繰り返すことで、最初の基準音から7オクターブ上の基準音、つまり「ド」に近似することを見つけ、この繰り返しの中で出てきた各音12音を最初の1オクターブ内に変換し収めることで、今の12音階(1オクターブを半音12で区切る)に近似する音を見つけ出したのです。

 「なぜ、完全5度を積み上げて今の12音階に近い音階を得ることができたのか」はちょっと不思議な感じもします。ただ、試行錯誤しながら研究・分析する中で、「完全5度が今でいう半音7個分、1オクターブは半音12個分に相当する」ということが想定できれば、「12半音を7半音の完全5度で区切っていけば、1オクターブの12半音の音高(周波数)が順次得られる」ということは、簡単な数学の原理で分かりますね。

 ピタゴラスもそのようなアプローチにより12半音を提唱したものと、私は推測しています。

 ピタゴラスの時代は、音楽と言ってもまだ単音で演奏すること(モノフォニック)が中心で和声(複数の音を同時に出して歌う)はごく簡単な完全5度又は完全4度(完全5度を逆展開した「ソ」「ド」の関係)のハーモニーに限られていたため、この考え方でも問題はなかったようです。実際、現在のハーモニーはもっと複雑で、完全5度の和音をベースに音階を組み立てると無理が出てきます。ただここで注目すべきことは、音律というものが、完全5度のみを意識したとは言え、この時代に既に和声を意識して提唱されたということ、これはハーモニーを語る上で注目すべき原点と言ってもよいと思います。そして、このピタゴラス音律はその後、古代(6世紀以前)から中世(6世紀から15世紀)にかかる11世紀頃まで盛んに使用されていたことが分かっています。  

 ≪時代が求めるハーモニーに連れての「変化/発展の歴史」≫

 それでは、現在のハーモニーにつながるポリフォニー(多声音楽)はいつ頃から発展したのでしょうか。

 資料によると、これは9世紀頃にスイスから始まり、12世紀以降にゴシック期のフランスを中心に発展したと記されています。そして迎えた16世紀のルネサンス(15世紀から16世紀にかけて、古代ギリシャ/ローマ風の復興を目指し、主にイタリアを中心に展開された文化運動)時代に、ポリフォニーによる声楽が教会を中心に宗教曲の中で発展して行きます。ここで、古代文化の復興を目指したルネサンスは主に「絵画」、「彫刻」、「建築」、「文学」の世界でのことで、音楽はそれとは別の流れで新しい芸術・文化として発展して行ったことを付記しておきます。ですから、音楽の世界では、ルネサンス音楽は、単にその時代の音楽ということを表す意味になります。

 

 このルネサンスの音楽に、つまりポリフォニーを盛んにすることに大きく影響を与えたのはイギリスのジョン・ダンスタブルで、彼がイギリス独自の3度・6度の和音を大陸に伝えたことから始まり、それがフランスのアイソリズムやイタリアのトレチェント音楽の優美な旋律の作風と統合されることにより発展していったと言われています。

 ここで話を少し変えますが、この時代の音楽家はほとんどが、教会か宮廷に、教会の典礼や宮廷の行事・娯楽のための音楽を作曲・演奏するための人員として雇われていました。つまり、後世の古典期(1730年から1810年)以降の作曲家のように自らの作品をそれ自体を目的として作曲することはなく、ある特定の目的や依頼に応える形で曲を作ることが大半でした。さりながら、時代の流れに乗って目新しさや意外性を追求し、当初のポリフォニーをどんどん複雑化させて行く先駆者的な存在でもありました。つまり、ハーモニーを重視しそれを楽しむ音楽がこの時代からスタートしたと考えられます。

 そんな流れの中、この傾向に対して、教会からはあまりに複雑化したポリフォニーは本来儀式で重要な意味を占める典礼文のラテン語の語句を聞きとるのが困難とした指摘も出始め、過剰なポリフォニーは典礼では禁止すると言った措置が取られるような一幕もありました。しかし、結局ポリフォニーはその後も発展を続け、初期バロック時代(1600〜1650年)には、より感情と結びついた音楽表現ということで、不協和音も積極的に試みられ、後世へと続いて行きます。

 ≪美しい和音重視の「純正律」の台頭≫

 

   

 このような背景の中で、単音で歌うことが中心であったこれまでとは変わり、現在私たちが普通に使用している3度の和音(ドミソ)、6度の和音(ドファラ、レソシ)も協和性のある和音として盛んに使用されるようになり、それに対応できる根拠のある音律の必要性が高まっていきました。このような流れの中で、1482年には、スペインの作曲家で音楽理論家でもあったバルトロメ・ラモスによって新たな音律として「純正律」が提唱されています。

 純正律の拠り所となったのは、「和音は、周波数比が単純な整数比になるときに良く調和し響く」ということで、これを”“「協和」が「純正」である”と言います。私たちが良く知っている長音階3和音(ドミソ、ファラド、ソシレ)の周波数比が4:5:6、長3度の音階の整数比が4:5、短3度の整数比が5:6、これに拠って長音階の純正律音階が設定されました。このルールで作られた周波数比で音階を並べると、基音「ド」を周波数1とすると各音階の「ド」に対する周波数比は次のようになります。

 
 

 

ファ

基音ドに対する比

1

(1.000)

9/8

(1.125)

5/4

(1.250)

4/3

(1.333)

3/2

(1.500)

5/3

(1.667)

15/8

(1.875)

2

(2.000)

一つ手前の音との比

9/8

(1.125)

10/9

(1.111)

16/15

(1.067)

9/8

(1.125)

10/9

(1.111)

9/8

(1.125)

16/15

(1.067)

 さて、純正律音階は、最初長音階が設定され、その後に短音階が設定されました。基音からの3度音程(ド〜ミ)の周波数比4:5よりも短い5:6にとるのが短調で、基音を「ラ」とした短調の基本3和音「ラドミ」「レファラ」「ミソシ」の周波数比は「ラ〜ド」が5:6、「ド〜ミ」を4:5、これにより基本3和音比を10:12:15となるように短音階の音階が設定されました。その結果は次のようになります。

 

ファ

基音ドに対する比

1

(1.000)

9/8

(1.125)

6/5

(1.200)

4/3

(1.333)

3/2

(1.500)

8/5

(1.600)

9/5

(1.800)

2

(2.000)

一つ手前の音との比

9/8

(1.125)

16/15

(1.067)

10/9

(1.111)

9/8

(1.125)

16/15

(1.067)

9/8

(1.125)

16/15

(1.111)

 ところで、ここで表をよく見て下さい。このように求めた音階で、長音階の「ド→レ」と短音階の「ド→レ」が実は異なる周波数に設定されてしまうことにお気づきでしょうか。このことは、長音階で設定された音律ハ長調の曲でイ短調の「レファラ」が出てくると、それはとても濁った和音になってしまうということです。

 これをきれいな和音にしようとすると、長音階と短音階で二つの「レ」を設けてそれを区別したり、ましてや転調がもっと複雑になることを想定すると、調ごとに音階を弾き分けるための異なる鍵盤が必要となり、それが仮に実現できたとしても、それを区別して演奏することは至難のワザ、実際には不可能となってしまいます。このようなことから、美しい和音を重視した音律である純正律も、実際にはごく限られた調、部分的調性にしか対応できなかったため決め手とはなりませんでした。実は、声楽ではこの不都合はあまり問題にはならないのですが、特に器楽曲で使うオルガン、チェンバロにとっては、弦、パイプの音高が固定されてしまって調整ができず、不快な和音を生じてしまう。これらが相俟って、純正律は長くは使用されない結果となってしまいました。

 ≪画期的な「中全音律」の提唱≫

 

 そんな、特にルネサンス以降、音楽がますます複雑化していく中で、1523年イタリアの作曲家で音楽理論家のピエトロ・アーロンが、純正律の転調に関する問題を解決するた画期的な音律「中全音律」を提唱します。この音律は、純正律とは異なった中全音律特有の和音の響き方がして、転調は限られてはいましたが、和声の調性を特徴づける音律となりました。

 この音律は、16世紀から18世紀に至るかなり長い間、鍵盤楽器に採用され、バッハ、ヘンデル等、ルネサンスに続くバロック時代(17世紀から18世紀)の作曲家はほとんどこの中全音律を使っていました。そして、この中全音律をさらに改善するものとして、「快適音律」(平均律、ヴェルクマイスター音律、キルンベルガー音律)が提唱されて行きます。

 前にも述べましたが、現在広く利用されている12平均律は、特に鍵盤楽器を意識して1636年に、マラン・メルセンヌにより、「12の半音を等比数列で単純に平均的に分割し、どんな調で弾いても同じ音の間隔となるように設定された音階」です。すべての転調に対応でき、あらゆる楽器の合同演奏にも問題なく対応ができるということで注目はされましたが、和音の鳴りが悪い、特に3度の音が純正律に比べ高くなっているために厳密には不協和音となってしまう等の難点から当時はなかなか採用されず、提唱された後も古典派で有名なハイドン、モーツアルト、ベートーベン、その他の作曲家もヴェルクマイスター音律かキルンベルガー音律のいずれかで作曲を行っていました。ショパンも、ピアノ曲はほぼヴェルクマイスターの音律で作曲したと考えられています。そのために、彼は演奏会に4台のピアノをステージに並べて、曲ごとに弾きわけていたとも伝えられています。

 

 ≪標準としての「12平均律」の定着≫

   

 上記のような経緯を経た後、12平均律の自由度や便利さが広く認められ拡がりを見せ始めたのは19世紀初頭からでした。12平均律の和音については、その響きの悪さが指摘されていながら、全体として少しずつ純正律とずれているために、実際にはそれほど耳障りでなく聞こえてしまうという面もありました。このことも、平均律が拡がり始める上で説得性を持ちました。

 かくして、この12平均律が音律の標準として位置づけられたのですが、このことは、現在の多様な音楽の発展に大きく貢献しているものと思います。どの調で演奏しても同じ音階ということは、現在カラオケではその人の声の高さに合わせて、簡単に音の高さを調整できることに繋がっており、それと同じことが演奏でも自由にできるのが12平均律なのです。

 ≪結び≫

 

 いかがでしょうか? 音律の歴史は、ハーモニーへの各時代の要請と深く関わりながら、現在は、音楽の自由度や合同演奏、転調の手法を制約なく使用できる12平均律に標準化された形になって今に至っています。さりながら、音律には絶対や正解がなく、今も議論が続いている状況でもあります。

 純粋にハーモニーに重きを置いた場合、純正律は捨てがたく、純正律で演奏する合唱団やグループが現在でも存在しています。皆さんがよくご存じの「ウィーン少年合唱団」や「ケルト系ポップス」、クラッシック・コーラスの「キングス・シンガース」等が代表例です。透明感のある今流行りのヒーリング音楽の中にも、純正律のものが多くあるようです。

 そして、私が取り組んでいたバーバーショップコーラスも純正律ハーモニーを目指す合唱団です。「その志は良し」なのですが、現実には、純正律できちんとハーモニーを作るにはそもそも高い技術力が必要とされること、純正律とか平均律とかいう前にもっと音楽の技術レベルを上げろということになってしまいます。詰まる所、「純正律のハーモニーで観客を魅了したい」というのは我々の夢なのかも知れません。

 

 純正律とか、12平均律とか、本稿だけではまだ良く分らない方が多いと思います。下記HPにて、その違いを体験できるコーナーも備えていますので、何らか興味を持って頂いた方は是非聴いてみて下さい。

  玉木宏樹の純正律セミナー : http://www.archi-music.com/tamaki/pms.html
  「NPO法人 純正律音楽研究会」ホームページ:    http://just-int.com/

 最後に、参考として、今まで説明した各音律の周波数の違い等を平均律の半音を100セントとする、音高のものさしとなっている「セント」という単位を使用して一覧にします。

                単位:セント

音名

音程

ピタゴラス

純正律

中全音律

キルンベルガ

12平均律

C (ハ調のド)

1度

C#(ハ調のド#)

短2度

76

90

100

D (ハ調のレ)

2度

204

204

193

204

200

D#(ハ調のレ#)

短3度

310

294

300

E (ハ調のミ)

3度

408

386

386

386

400

F (ハ調のファ)

4度

498

498

503

498

500

F#(ハ調のファ#)

短5度

579

590

600

G (ハ調のソ)

5度

702

702

696.5

702

700

G#(ハ調のどソ#)

短6度

772.5

792

800

A (ハ調のどラ)

6度

906

884

890

895

900

A#(ハ調のラ#)

短7度

1007

996

1000

B (ハ調のシ)

7度

1110

1088

1083

1088

1100

C (ハ調のド)

8度

1200

1200

1200

1200

1200

 お読み頂いて、ありがとうございました。

 当たり前と思っていた音階が、実は正解のない不思議な世界であることを理解して頂けましたでしょうか。
これを機に少しでも音楽を聴くときの聴き方が変わり、興味を持って頂ければ幸いです。
 

  [ミニ知識追記]

 ・音楽で使う音の高さを世界共通で扱うために決めた特定の周波数を「標準高度」と呼びます。

 古くからいろいろな標準高度が使われてますが、19世紀末からはパリ会議(1859)とウィーン会議(1885)によって、オクターブ4のラ(A)の音を435Hzとする標準高度が代表的に使われるようになりましたが、現在ではシュトゥットガルト会議(1834)で決められたオクターブ4のラ(A)の音を440Hzとする標準高度が基準として広く使われています。また、この基準周波数を少し高くして441Hzにすると音が全体的に少し高くなる分、音楽が明るくなったような印象を受けるので、演奏家などの要求で、441Hz442Hz、あるいは439Hzで調律することもあるそうです。

 ・「88鍵ピアノ」は、オクターブ0の周波数27.5Hzから7オクターブの途中の4096Hzとなっています。27.5Hz以下の音は人間にはほとんど聞こえず、8オクターブの音は聞こえはしますが、音楽としてはほとんど使えない音となります。そこで、ピアノはこの範囲の周波数でできています。

 ・人が「違う音」として認識できるのは、周波数で0.2%以上の違いがある場合だそうです。現在の音階は半音が約6%の上昇、全音で倍の約12%の上昇音となります。平均律と純正律の「ミ」の音は平均律が約1%高い音となっていますので、この差は結構大きいですね。この辺が今でも純正律のハーモニーを追求するグループが多くある理由の一つかも知れません。

 ・1オクターブを12音で分割するというのが、西洋音楽では主流ですが、「それ以外の音律」もあまり知られてはいないですが存在しています。実際使用されているものとして、インドネシアにある5平均律、タイにある7平均律、さらにインドの22シュルティに分割したものさらに1/4音や1/8音まで区別した53平均律というようなものもあるようです。

 ・倍音というのがありますが、これは基本的にある音を鳴らすとその周波数の倍の音が聞こえてきます。例えば100Hz(ドとすると)の音を鳴らすと倍音は200Hz(1オクターブ上のド)300Hz(ソ)、400Hz(2オクターブ上のド)、500Hz(ミ)・・という具合で理論的には無限です。そしてこの倍音が実は純正律の音です。
  

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