「中国の環境問題と経済社会的条件」
  

   

 中国の環境問題や地球温暖化防止対策に関して、日本がその技術力で協力すればよいという考え方がある。これに対して、中国側の経済社会的条件がそれを受け入れないのではないかという議論がある。今回は、それに関連するさまざまな状況についてまとめて見たい。

 

 中国の経済社会的条件と言っても、漠然と捉えても話が先に進まない。ここでは、

1)現場レベル: 末端の企業の投資に対する考え方や市民レベルの意識

2)お上レベル: 中央や地方政府の政治的戦略や判断など政策レベル

に分けて議論したい。

 

 日本ならば、エレベーターやベルトコンベヤーなどを駆動させる産業用モーターには、回転数を最適に制御するインバーターが搭載されているのがほぼ常識だ。現在の中国では、ついているのが珍しいのが実態。インバーターを取り付ければ、モーターの電気使用料を3割から5割も削減できるにも拘わらずだ。

 

 なぜならば、中国ではエコロジーという理由だけでは顧客の支持を得られない。省エネを進めるには、機器の更新など一定の投資が必要になる。経済が急成長している今の中国では、企業はどうしても成長のための投資を優先しがちになる。特に資金力の乏しい地方の中小企業ほどこの傾向は強い。中国企業は環境意識が低いというより、「環境に対する投資の優先順位が低い」のだ。

 

 こうした状況を打破するには、新しいビジネスモデルが必要。初期投資をタダにして、省コスト分を成功報酬として回収する方法を提案しているベンチャービジネスが上海にあるのがその一例となる。ここには技術力のある日本企業が提携しており、技術の裏づけがあるのが特徴。このようなベンチャーのような仕組みが持つメリットは地方の中小企業に営業する上で大きな武器になる。

 

 一方、政府(中央および地方)の動向だが、昨年12月のCOP15で中国政府は2020年までに単位GDP当たりのCO2排出量を2005年比で4050%減らすと、従来よりも踏み込んだ数値目標を打ち出している。日本や欧州に比べれば、はるかに穏やかな目標ではある。ただ、経済成長とCO2削減の二兎を追わざるを得ない中国ならではの事情がある。

 

 しかし、経済発展に伴い石油の純輸入国に転じ、自動車大国になるなど石油の消費量は右肩上がりで上昇しており、生産部門での省エネを進めなければ成長の阻害要因になることは明らかだ。政府レベルではそのことを認識しているから、CO2削減に動き出したのだ。

 

 その目標達成に重要な役割を担うのが地方政府になる。国の省エネ目標は、地方の政府にノルマとして降りかかるからだ。地方の役人の成績に「環境」の項目が入ったことを意味する。

 

 環境分野は日本企業が得意としているのに、ビジネスとしてはあまり機能していない。中国は日本の技術をノドから手が出るほど求めているにもかかわらずだ。「地球に優しい」といった抽象的な言葉では中国人は動かない。実利が伴い、かつ「お上」からの締め付けがないとインセンティブが働かない。ようやく、そうした環境が少しずつ出来つつあるというのが現状だろう。前途は道遠しという感もあるが、そういう芽になるものが大きな樹木に育つことを期待したい。

 

 また、草の根レベルでは、身近な環境、すなわちゴミの散乱する汚い街並みや大都市で日常的にスモッグが発生する大気汚染、河川のよごれといった事への関心が高まっている。私の知人(縁戚だが)で元大手ガス会社の役員だった人が、たびたび中国に呼ばれて環境問題の講演をしているが、特に内陸部(成都や重慶など)での聴衆が年々増えているそうで、明らかに関心は高まっているようだ。 

 
 大気汚染は、SOXNOXや空中浮遊物も含む)が西風に乗って日本にも影響を及ぼす。河川のよごれは農民が農薬の使用方法を誤っていることが大きな原因と言われているが、日本に輸入する野菜等で時々農薬が検出されるという被害も受けている。これらの問題は、直接地球温暖化に結びつくわけではないが、広く環境問題への関心度と捉えれば、以前よりは良い方向へ向っていると思う。ここでも日本の技術力で後押しできれば、更に前進が期待できるだろう。

 

 ただし、これには条件がある。日本は技術力さえあれば「勝者」になれるかといえば、相当疑問があるように思えてきた。欠けているのは政策とリーダーシップ。それと企画・構想力と設計力も弱い。政府と企業が一体となった「売り込み」活動がないと新興国では勝てない。最近相次いで原発の売り込み競争に負けたことがその象徴だ。日本人には最も苦手な「ロビー活動」も機能させる必要もある。

 

 その意味で、中国等へ日本の技術力で「協力」するという表現は誤りで、より積極的な働きかけ、もっといえば「売り込み」をかける位でないと、相手国には受け入れてもらえないのだ。

 

 せっかく受け入れ側の実態が変わってきても、ただ技術をふりかざすだけの日本側の態度を改めないと事態を変えることはできない。つまり、経済社会的条件のボールは日本側が持っているというのが当面の見方である。

 

 なお、中国環境問題への日本からの技術供与に関して、最近、以下のような情報が環境関連サイトに出ていた。タイトルは「日本企業の積極姿勢に期待 中国は日本の環境技術を待っている」。中国政府の環境政策を担当する要人(副大臣クラス)の発言(インタビュー)記事だ。

 

以下に要旨のみ列挙する。

・日本の環境技術は中国に適している

・中国は日本に期待しているが、現状は協調関係が出来上がっていない

・その理由は、日本(企業)からのアプローチ(アクション)が少ないことにある

・欧米諸国は非常に積極的に働きかけてくる。このままでは主導権は欧米に取られてしまう

 

「経済社会的要因はもちろん中国サイドにもあるが、日本側にもあるのではないか」と書いたが、それを裏付ける情報が得られたことになる。単なる「協力」を超えた積極的なアプローチがないと、中国の環境改善を日本の力で実現することは難しそうだ。

2010425日) 
 

                                              
 
   倉石 英一  kuraishi@kkcom.com   

 
 
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