エコビレッジ「木の花ファミリー」体験宿泊の衝撃
私自身がエコビレッジと称するところに住んでいることもあって、他のエコビレッジにも関心があるが、今回、最も興味を惹かれていた「木の花ファミリー」というエコビレッジに体験宿泊に行き、大きなカルチャーショックを受けた。
自然農法による農業を中心とするエコビレッジだが、全員がひとつの家族のような親密なコミュニティで、しかも毎日自分の心を磨くという精神性が高いことが特徴である。
1] 概要
① 静岡県富士宮市に約17年前に20人でスタートしたエコビレッジ、次第にメンバーが増えて現在は75名、男性28名、女性47名、大人53名、子ども22名、平均年齢は約33歳。
② 設立の目的は「自然と調和して暮らすこと、個人のエゴを無くしひとつの家族のように助け合って暮らすこと」。
③ 無農薬有機栽培の農業が中心で、当初は自給自足が目的、最初は小さい耕地から始めて次第に面積が増え、4年前は12ha、現在は16haの田んぼと畑がある。耕地は借りているが、ほとんど無償である。最近は後継者がいないため耕作ができなくなる農家が多く、そこから代わりやってくれないかという申し入れが多いという。
④ 農業は少量多品種栽培で、多種類のお米の他約110品目250種の穀物や野菜類を生産している。自分たちの食料は、油、塩、砂糖以外はすべて自給自足できるようになった。現在は近隣の家庭に野菜類の宅配をすることを中心事業としており、その収入でコミュニティの経済は黒字になっている。
⑤ 住まいや事務所は、周辺の既存建物を借りたり購入したりしてまかなっているが、メンバーが増えていること、体験宿泊者が増えていることなどから、最近、介護施設だったところを買い取って「ひまわり」という本部施設とし、隣の民宿も買い取って宿泊施設とした。
⑥ メンバーは子どものいる夫婦、母子家族、夫婦のみ、独身男女、年金生活者など様々であるが、中には家族と離れて参加している中年男性、中年女性もいる。
⑦ 生活はシンプルで、朝7時から午前の農作業、中休みが入るが12時までやって、本館の食堂で全員そろって昼食(朝食はなく、昼夜の2食主義)。2~3時間の休憩の後、午後の農作業、6時に終了し、風呂に入って7時から全員で夕食。9時から全員のミーティングをやって就寝。これの繰り返しで、土日祭日もすべて休みなく行われる。就学期の子どもは地域の小中高に通っている。
⑧ メンバーは役割分担されていて、農作業担当、厨房担当、家事担当、子育て担当、事務経理などに分かれている。子どもは親が育てるというのではなく、全員の子どもとして共同で育てられる。
⑨ 食事は玄米菜食で、卵と乳製品はとるが肉と魚は食べない。平飼いで多くのにわとりを飼育しており、養蜂で蜂蜜を、ヤギから乳をとる。味噌醤油を伝統的な製法でつくっている。お酒タバコはない。
⑩ 農業では化学農薬、化学肥料は一切使わず、EM菌(有用微生物群)を改良した「木の花菌」を中心に栽培している。鶏舎も木の花菌を使用しているので、鶏の病気もなく臭いもほとんどない。
⑪ メンバーになるには本人の決意のみで、費用は不要である。年間収入は全員に平等に分配される。最近の全体収入は5300万円ほど、一人当たり約70万円である。経費を除いて各人が申告すると個人収入は約44万円、そのうち24万円を共益費としてファミリーに納め、残り20万円は個人の収入となる。普通は20万円では暮らせないと思われるが、ここでは衣食住のすべてが共益費でまかなわれるので、個人はお金のかかるところがない、とのことである。60歳以上の人は仕事を強制されず、年間24万円を支払えば衣食住は支給される。
⑫ このコミュニテイの最大の特徴と思われるのは、夜の全員ミーティングである。8時頃から子ども中心のミーティングがあり、その後9時頃から「大人ミーティング」と呼ばれる全員の会合が開かれる。その日の出来事の報告から、明日の予定、会計報告、訪問者の確認、必要事項懸案事項の討議などが行われる。さらに各人の疑問や悩みも提示され、皆で意見を言い合う。このミーティングは、この17年間1日も欠かさず行われているという。しかも、訪問者も参加することができ、すべてのことがオープンにされている。
⑬ このコミュニティには近年、年間約2千人の訪問者や宿泊者があるという。1日平均にすれば5人以上の驚くべき数字である。それはここの評判を聞いての見学者、一泊の研修者、短期の一時的研修者、海外からの見学者、自然療法の面談者や宿泊しての療養者(ここでは競争社会のストレスで心や体が不調になった人たちのためのケアプログラムがあり、ここで療養して社会復帰して行った人も多いという)などである。コミュニティは誰に対してもオープンであり、昼食夕食を含んで一泊5千円で宿泊できる。
2] 考察
以上が概要であるが、私にとっては、前々から概要は聞いていながら、現実にその中に入ってみると、実際のインパクトが大きく、大きなカルチャーショックを受けた。それは、宗教性やイデオロギー性がなくメンバーが平等である、有機農法で自然と調和しながら自給自足して暮らす、メンバーがひとつの家族のように共生のコミュニティをつくっている、高い精神性が保たれている、誰にでも開かれているコミュニティである、といった理想のエコビレッジの条件がすべてあって、しかもそれが現実に17年間も続いており、ますます発展しつつある、という事実に信じられない思いとショックを受けたということである。
① 禁欲的な暮らしであるが豊かである
ここの暮らしは、単純化して言えば、農作業をやって食事をしてミーティングをして寝る、ということの繰り返しで、休みがないのでメンバーがコミュニティを離れることはほとんどない。俗世的な娯楽、例えば、外食、観劇、映画、音楽会、旅行、スポーツのために出かけることはないし、肉魚を食べず、酒タバコはないし、新聞やテレビにもメンバーはほとんど興味がないようである。中には、「独りになる時間はほしいがとれない」という意見もあった。なぜ休みがないのかという質問に対し「仕事というものを設定するから休みが必要になる。ここでの作業は仕事ではなく生活である、生活には休みは必要がなく、毎日が休みと考えてもいい」という答えであった。結局、俗世を離れたいと思ってここに来た人が多いということであるが、欲望を捨てきれず去っていった人もかなりいたようである。私自身も、ここは理想的なエコビレッジと思うものの世俗的な欲をそこまで振り切って自分が参加できるかといえばまったく自信がない。(外出については禁じられているわけではなく正当な理由があれば自由である。)ここのメンバーの平均年収は44万円程度で普通で言えば完全に生活保護対象の極貧生活であるが、ここでは人々が満足し豊かに暮らしていることがわかる。結局、俗世では欲望を消せない限りいくら収入があっても豊かにはなれないということだろう。
② 高い精神性とはなにか
「エコビレッジにおける精神性とは何か」というのは大変むずかしい問題であるが、ここでは「個人および全体の霊的な成長をめざすこと」と捉えることにしたい。私は、それなりに研究したり実践したりした感じから、そのための手法は「生活の中に瞑想を取り入れる」ことであろうと考えている。訪問したことは無いが海外のスピリチュアルなエコヴィレッジの中で私が理想的なのではないかと思っているのは、スコットランドの「フィンドホーン」である。そこでは多くの瞑想空間が用意されており、生活・仕事・瞑想が渾然一体となっているように見える。しかし、木の花には、そのような一人になり瞑想するような場所や時間は用意されていない。精神性を高めるための主たる場は、毎夜開かれる全員の「大人ミーティング」である。ここでは、必要事項の報告討議の他に、メンバーの相互関係・自分や他人の心の悩み・思いやりや愛・宇宙の仕組などの精神的な問題について長時間の意見交換が行われるという。個人のエゴ的な感情や行動については、周囲から徹底的に追及されるという。何人かに聞くと「最初は、何でそんなことまで言われなければならないのかとむかついたけど、最後は自分が間違っていたことがわかった」というのがほとんどの人の感想だった。その目指すところは、「自分を無にすることでファミリーとひいては人類・地球・宇宙と自分が一体であることを会得する」ことのようである。無私になるためにはどうすればいいかという質問に対して「自分のことを一切考えず常に周囲の人のためになることだけを考える」、もうひとつは「目前の作業、例えば、農作業、掃除、洗濯、調理、食事などに集中して無念無想になること」という答えがかえってきた。瞑想は必要ないのかという質問には、「有効性が無いとは言わないが、瞑想しても現実社会に戻ると心も元に戻ってしまうことが多い。それよりも目前の作業に集中すればそれは瞑想していることと同じで、24時間瞑想しているようなものだからもっと有効だと思う」という答えで、いずれの考え方も興味深いものであった。エゴを無くし、全体の調和を目指すという考え方は個性を消し全体主義になるのではないか、という懸念もあるが、実際にメンバーに会って見るといずれもすごく個性的な人ばかりで杞憂であることがわかった。
③ 精神的リーダーとしてのイサドン
フィンドフォン、イタリアのダマヌール、インドのオーロビルなど有名なスピリチュアルなエコビレッジには、創立者でありかつ精神的なリーダーである人物がいる。木の花ファミリーでは提唱者であるイサドン(61歳)(ここではすべての人が愛称で呼ばれる)が精神的な支柱になっているようである。運営や決定は全員の話し合いで行われるので、イサドンがリードするわけではない。しかし、外来者が様々な悩みの相談を持ち込んできたときの面談の責任者はイサドンである。また、夜のミーティングでもむずかしい問題、例えば、精神や心、神性・仏性、自然の仕組み、宇宙の仕組みなどに関するメンバーの疑問に対してはイサドンが答えることになる。不思議なことに、イサドンは知っているから答えているのではなく「自然に答えが頭の中に浮かんでくるのでそれを言葉にしているだけだ」という。「私もなんと答えたかを覚えていなくて、後で記録を読んでこんなことを答えたのかとわかることが多い」と本人が言っている。その答えはどこから来るのかといえば、「宇宙意識」からだという。宇宙意識とは何だろうか。一説によれば、ある場所にアカシック・レコードと呼ばれる記録があり、その中には宇宙から人類を含むすべての歴史や知識が蓄積されているという。米国人のエドガー・ケイシーはトランス状態になるとレコードにアクセスでき、人々の質問に答えて世界知識遺産ともいうべき膨大な記録を残した。ドイツ人のルドルフ・シュタイナーは常態のままでアクセスできたといわれ、多分野でやや秘教的な業績を多く残している。イサドンをそのような人たちと同列に論じていいのか、というのは私にもわからないが、宇宙意識とはアカシック・レコードと同じようなものに思われる。ユングは「集合的無意識」を論じたが、その中に過去からのすべての情報が蓄積されており、普通の人でも夢の中などでそれを見ることがあるという。それはすべての人のDNAの中に蓄積されている、という見解もあるし、5次元界に存在しているという人もいる。いずれにしても、どこかに何かがあり、イサドンはそれにアクセスできる興味深い人物なのである。イサドンの言う「エゴを無くし、自分を無にする」というのは仏教的な考えに近い、一方で、ケーシーやシュタイナーの考えにはキリスト教的なものが色濃く出ている。それは、アクセスした集合的無意識にも地域性があるということを示すもののように思われる。
④ 疲れた心を癒す自然療法
ここのメンバーには、「理想の共同体をつくることを目的にここに来た人」「多くの共同体を渡り歩いて最後に理想の共同体としてここにたどり着いた人」「精神世界に興味を持ち求め歩いてここに来た人」など積極的な動機の人たちの他に、現在の競争社会に疲れた人も多く参加してきているようだ。「私はパニック障害だったんです」という人や、仕事のノルマに追われて精神的に不安定になったためにここに来た、という人もいる。今の状態を聞くと、「すっかりよくなって今はとても安心して暮らしています」というのが多くのメンバーの意見であった。確かに、ここには仕事のストレスはないし、衣食住の心配もないし、お金も必要ないし、老後の心配も無い。ここでは、人々の精神が正常に戻ってゆくのは当たり前だなと感じられる。いまや、多くの心を病んだ人たちが噂を聞いてここを訪れる。木の花では「自然療法」としてそういう人たちを積極的に受け入れているのである。玄米菜食の食生活、自然のリズムに合わせた規則正しい生活や農作業、多くの仲間との交流などを通じて、薬ではなおらない病が治るというのは素晴らしいことである。
⑤ エコロジカルフットプリント(EFP)は0.8個
生活のエコの程度を表す指標がEFPである。最終的には地球何個分の資源やエネルギーを消費しているかで表される。すべての人の指標が地球1個分より少なくなければ全員が生きてゆくことができないのであるが、日本人は2.4個分(すべての人が日本人と同じ生活をすると地球が2.4個必要)であり、米国は5.3個分である。先進国は軒並み1個を超えるが、発展途上国が1個以下の生活をしているおかげで先進国民が贅沢ができるのである。木の花ファミリーの生活を専門家に計算してもらったところ、0.8個であったという。1個以下であることはさすがであるが、個人的にはもっと少ないのではないかと思っていたのやや意外であった。よく観察してみて、その理由がわかった。ひとつは、エネルギーの自給が無いということである。多くのエコビレッジでは、太陽光発電や風力発電、バイオガスなどでエネルギーを生み出している。もうひとつは、多くの車を移動などに使っていることである。このふたつが改善されればもっとEFPは下がるはずである。
⑥ これからの木の花ファミリー
木の花ファミリーは優れた点が多いが、問題が無いわけではないと思われる。メンバーの中にも、悩みや俗世的な欲望を抱えながら何とかここに適応しようと苦労している人もいるようである。多くのメンバーはここのライフスタイルや精神を日本中にひいては世界に発信し広めたいと考えているが、ある意味ここは「過激なエコビレッジ」であるために容易ではないと思われる。
これまでも、理想のコミュニティをめざした取り組みはいくつかあった。そのひとつは「山岸会」である。創設から60年を経て第2世代になり、まだかなりの数の拠点が存在しているようであるが、聞いたところでは、当初の理念はかなり薄れ、農産物や畜産物を売ると言う経済行為が中心になっているとのことである。もうひとつは武者小路実篤が提唱した「美しき村」である。これは現在も埼玉県毛呂山にあるがメンバーが高齢化し、若い人が入らないので衰退しつつあるという。木の花ファミリーはまだ17年でメンバーも若く、まだまだ拡大しそうである。100人、200人となった時に全体の意思統一はうまくゆくだろうか。存続のポイントは、30年後、50年後でも世代構成のバランスが取れていることと、当初の精神性や目標を保ち続けることであろう。当初のリーダーが健在で、コミュニティの規模が適当である間は問題が少ないが、そうでなくなったときにどういう仕組をもって高い精神性を保ちながら存続できるかが問題であろう。私が個人的に残念に思うのは、建物が既存のものを再利用しているのでインパクトが無いという点である。欧米のエコビレッジでは建築もエコ手法を用いて楽しいものをつくっているところが多いので、ここでも将来是非そういう建築にチャレンジしてほしい。
いずれにしても、木の花ファミリーの今後ますますの発展を祈りたい。 [2011.9.22]
[写真集]
| メンバー集合(HPより) |
現在の本部棟 |
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| 本部棟のホール兼食堂 |
美しく盛られた夕食のサラダ |
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| 子供たち(HPより) |
食堂風景(HPより) |
御節料理、エビフライに見えるのは野菜フライ(HPより) |
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| 養蜂(保管中) |
味噌醤油発酵中 |
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| 平飼いの鶏 |
ヤギ |
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| コンポストトイレ |
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